塩対応の洗礼
実は私自身、18歳の頃から数年間、キャバクラ嬢として働いていた。
キャバクラで働く女の子とは、それなりに仲良くやってきたし、仲良くやっていけるだろうと根拠のない自信があった。
ただ、黒服としては別だ。
あくまでも私は黒服。
ホステスではない。
初日に早速、塩対応の洗礼を受けることとなる。
私が入店した初日、営業時間前になると女の子が出勤してくる。
『おはようございます』と女の子に挨拶をすると
・・・無視。・・・無言。
すぐに察した。『まぁ、そんな感じですよね』と・・・。
お店に出勤したら
『あんた誰?という女の黒服がいたら、そりゃあ、警戒しますよね』
私がホステスの立場でも、無視するかな。と・・・。
今だから言えますが、当時はかなり傷つき、これから先、ちゃんとやっていけるかなと不安になりました。
ただ、やると決めたからには、きちんとやり遂げたい。
その思いだけで、きちんと働いているホステスさんに認められるように仕事に励もうと心に誓った忘れられない。
人生で1回しかない、黒服初日の出来事でした。
ちゃらちゃらするのも違う。
私はあくまでも黒服。そして裏方。
きちんと線引きして、働くことを決めた。
仕事の仕方
卓番にはじまり、席へのご案内、ドリンクの作り方、伝票の書き方、荷物のお預かり、トイレ清掃…
その他にも黒服の仕事は多岐にわたる。
従業員が多く、広いお店だったりすると
フロント、ホール、キャッシャー(レジ)、つけ回し、キッチンなど
細かく役割分担があり、そのポジションの業務をこなせばいいだけになるが
私が働いたお店は小箱。
それに中野店長と私の2人。
特別、小さい規模だった。
全ての業務を請け負うことになる。
そして、一度にいろんなコトを頼まれるので、優先順位をつけて、尚且つ、決められた時間内に遂行する必要がある。
例えば、女の子がドリンクを頼んできて、お客様はたばこを買ってきてほしいと言ってくるとする。
それだけなら、まだいいが、そのオーダーを
受けている時に別の席から
『お願いしまーす』『お願いしまーす』
と呼ばれると、今受けたオーダーを抱えながら、別の席の要望を聞きに行く。
メモをとってはいけないルールはないが、メモをとってるヒマもないくらい、次から次へとタスクが増えていく。
一度、聞いたコトを忘れず、スムーズかつ、優先順位を瞬時に判断して
業務を遂行することが求められる。
ぼーっとしてるヒマなんてなく、1日1日の営業があっと言う間に過ぎていく。
中野店長と言う人
中野店長は私に
『初日は見学くらいで、まずはお店の雰囲気に慣れてくれればいいよ』
なんて、言ってくれたが
時給をもらっている以上、そんな訳にはいかないと思いながら、初日の営業に臨むことになる。。
ここで話はちょっと逸れるが、この優しい中野店長は一緒に働いていく中で
私は何度も激しく叱咤されることとなるが、水商売(黒服)としての基本を沢山、教えてもらった。
また、右も左もわからない私を育て、必要としてくれ、評価をしてくれた、これ以降出会うことのない人だった。
時に、理不尽な叱咤もあったが、不思議と中野店長に対しては
『なにくそ』と反発する気持ちにもならず
いろいろあるけど、『この人(中野店長)についていこう』
と思わせてくれる人だった。
黒服としての基本は全て中野店長から学んだ。
理不尽なことも沢山経験したけど、この出会いがなかったら、黒服を続けていなかったかもしれない。
時代やお店、環境が変わっても私の一番根っこの部分には中野店長の教えがあった。
良いことも悪いこともあったけど、人の心に触れて仕事をした。
それが私の黒服人生のスタートだ。
卓番とドリンク
まず私が中野店長から教えてもらったことは、席の番号とお客様と女の子が飲むドリンクについて。
キャバクラを知らない人が読んでもわかるように説明も交えて、丁寧に書いていこうと思います。
キャバクラは一般的な飲食店と同様に1席、1テーブル毎に【卓番】が決まっている。
とにもかくにも、まずは卓番を覚える所からがスタートだ。
何故なら
『みさとちゃん!5卓のお客様にビール出して』
と言われた時に
その卓番がわからないとドコの席に頼まれたオーダー(ビール)を出したらいいのかわからないからだ。
単純なようで、人によっては、この卓番をなかなか覚えられない人も多い。
席数が少ないこともあり、何回かお店を見渡して、心の中で『1卓』『2卓』と呟きながら、私はその日に覚えた。
次に、お客様が飲むハウスボトルについて。
まず、お客様が来店したら、ハウスボトルはウィスキーと焼酎があるから、どちらがいいか選んでもらって、お客様にお出しするということ。
ハウスボトルはセット料金に含まれている飲み放題のお酒のことだ。
次に女の子が頼むドリンクは1杯1000円で、小さいシャンパングラスにドリンクを入れて提供するということ。
女の子のドリンク作りは特に重要で、アイスは2コ入れて、カクテルだったら、お酒はこれくらいで、割りものはこれくらいの割合で作ると言ったこと。
あまりお酒が濃いものを提供してしまうと、女の子が酔い過ぎてしまうから、きちんと分量は気遣って作ってほしい。と言った、とても丁寧なレクチャーだった。
とりあえず、初日は見学するくらいで大丈夫だから。
できたら、お客様の飲みものや女の子のドリンクを作ってほしいと言った、易しいものだった。
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小箱からのスタート
夜になると人通りも少ない、車もほとんど通らない、飲食店もあまりない、大通りから少し奥に入った薄暗い通りにお店があった。
ここ(キャバクラ)に本当にお客様は来るのか?
そう思うような立地のお店で私は黒服としてデビューした。
中野店長と約束した出勤時間の10分前にお店に向かうと、静かな通りにポツンとネオンの看板が出ているのが見えた。
良く言えば、路面店。
ただ、半地下??のようなお店。
そこは、私の黒服としての原点になるお店。
お店に到着し、ドアを開けて
『おはようございます!!』
と発した。
まだお店は営業前で、シーンとした店内の奥から中野店長が出てきた。
『おはよう。みさとちゃん!』
『今日からよろしくね!』
と、面接の時には見せなかったフランクで笑顔の中野店長がいた。
『よろしくお願いします』
と緊張しつつ、返事をした。
私が最初に働くことになったお店は、店内8席、ボックス席1つのいわゆる、小箱と呼ばれるキャバクラだった。
1日の出勤ホステスは10人前後、入店してから知ったが、スタッフは中野店長1人だけ。
つまり、私が入店してやっと2人。
そんなお店だった。
簡単に店内説明を受け
『今日は初日だから、どんな感じか見てもらって見学みたいな感じで大丈夫だから』
と言われた。
気の利かない私は
『わかりました。』
と一言答えて、初日の営業に臨んだ。
黒服人生のスタート
店長の中野さんから、是非、うちで働いてほしいと言われた面接の終わりに
『はい。よろしくお願いします』
と答えた私は、
明言していないものの
『ここで働きます』と伝えたも同然だった。
その後、店長の中野さんに
『じゃあ、明日から来れる?時間は何時でも合わせるから』
『あと、連絡先も交換しときましょう』
と、あれよあれよとクロージングされ、面接の翌日から私の出勤(入店)が決まった。
中野さんからは
『服装はなんでもいいよ。あ。でもスーツっぽい服装でね』
と言われ、出勤時間を伝えられ、面接後は自宅に帰った。
今だから言えるけれど、まだ黒服として働くことを決めていなかった。
お試しじゃないし、冷やかしでもないけれど、面接で話を聞いてみる程度の感覚だった。
覚悟もなく、やる気もあるのかないのか、わからない中途半端な気持ちでなんとなくスタートしようとした私の黒服人生。
正直、黒服として働くか迷いもあった。
やっていけるかと言う不安もあった。
でも、ガッチリクロージングされ、連絡先を交換した私は、バックレる勇気もなく
翌日、働けるように服を買い揃えて、時間前にお店に向かった。
初めての黒服面接
私が黒服の面接に行った初めてのお店。
そのお店で初めて話した中野さんと言う男性は、お店の責任者(店長)だった。
無愛想だけど、感じが悪いと思わない、不思議な中野さんの面接は無駄のない、良く言えば、とてもシンプルなものだった。
『何の求人をご覧になりましたか?』
『水商売の経験はありますか?』
『同居しているご家族はいますか?』
確か、それくらいだった気がする。
その後、簡単に仕事内容やお店の説明をしてくれ
『何か聞きたいことはありますか?』
ととてもスピーディーに面接が進んだ記憶がある。
そのスピード感に何も考えられず
『質問はとくにないです。』
と答えると
『じゃあ、ぶっちゃけ時給はいくらを希望していますか?』
と間髪入れずに質問され、
ハッキリと言えない私は
『求人に記載があった金額くらいは。。』
と自信なく答えた。
店長の中野さんは
『それだけでいいの?ほんと?』
と強めに聞き返してきたが、
たかがスタッフ希望で経験もないし、どれくらい頑張れるか、どれくらい貢献できるかわからない。
それにそもそもエスコートの相場の時給がわからない。
そんな私が、ホントはもっと欲しいです!なんて言葉を言えるハズもなく
『はい。求人に記載の通りの時給くらいは、せめて。。』
と答えるのが精一杯だった。
すると中野さんは
『わかりました。じゃあ、最初はこの時給から始めましょう』
『ただ、仕事を覚えてもらって、できることが増えたら、時給を少しずつ上げていきます』
『僕は女性の黒服がお店に欲しかったので、みさとちゃんには是非うちで働いて欲しいと思っています』
とストレートな言葉と真っ直ぐな眼差しを向けられ
ハッキリと言えない、どちらかと言えば流されやすい私は
『はい。よろしくお願いします』
と答えていた。